※追記2014/6/22
この記事に「過熱報道」などのキーワードでたどり着いた方、この記事では主に「この問題はそもそもそんなに取り上げるべきことなのか?」ということについて慎重に考察しています。 もしもとめている情報がこの記事に書かれているのと違うようであれば、ぜひ みんなの党 「おときた駿」都議のブログ(とくにBLOGOSに転載されたもの )を読んでみるとよいと思います。執拗な犯人捜しや都議会バッシングに対する違和感はそちらに語られています。6月18日付のもの 、6月20日付のもの は必見です。
どうにも違和感が抑えられなくなったので筆をとります。
18日(水)、東京都議会本会議(第2回定例会)で行われた一般質問で、会派「みんなの党 Tokyo」の塩村文夏(あやか)都議の質問に対して女性の人権を愚弄するような野次が飛ばされたことで話題となっています。
NHKニュース
18日行われた都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏議員(35)が妊娠や出産などに関する子育て支援策について都の取り組みをただした際、ほかの議員から「自分が早く結婚したほうがいいんじゃないか」、「産めないのか」などとやじを受けました。
塩村議員は18日夜、ツイッターで「政策に対してのやじは受けるが、悩んでいる女性に言っていいことではない」などと反発し、「リツイート」と呼ばれる引用が19日正午までに1万件を超えるなど波紋が広がっています。 19日午後、報道各社の取材に応じた塩村議員は、やじに同調する議員が複数いたことが残念だとしたうえで、「人格を否定するようなやじや政策と全く関係のないやじはするべきではなく、ひぼう中傷になる。質問に立つ議員を尊重してほしい」と述べました。
・そもそも野次をなくそう!
まず、大前提として他会派の議員が質問しているときに野次を飛ばして進行を妨げるという低俗な行為が横行していること。答弁の内容が不十分で飛ばす野次ならまだ理解できるが、質問を妨げるというのはその後の建設的な議論をすべて放棄する行為に他ならない。もっといえば、こんな野次を飛ばす人間を塩村都議含むみんなの党会派やほかの女性都議たちは絶対に信用のしようがない。別の議題での会派を超えた協力の可能性なども一切捨てているわけで、建設的な議会運営を否定する行為だ。当然都民の声など聞けるはずがないので議員としての素質に欠けるのは明白である。
しかも塩村都議本人が指摘しているように今回は政策の内容についてではなくて女性の存在そのものを傷つける発言である。「政策として支援が不十分なところをどう改善していくのか?」という問題提議をしているのに対して「はやく結婚した方がいい」「お前が結婚しろ」などと「女性個人の問題」に責任を転嫁しているのである。こんな考え方のもとでは子育て支援もへったくれもない。
・不見識を通り越して頭の悪さを露呈する
さらに呆れるのは「産めないのかよ」という発言だ。「不妊に悩む女性に対する人権侵害」との指摘もあるが、この質問、聴いていると次に出てくるのは「男性不妊に対する周知のなさ」を改善する必要を説くものである。まさにコイツら(野次を飛ばした議員たち)のせいなのである。こどもができないのは男性側の体質が原因かも知れない、女性が責められるべきではない(もちろん女性側の体質的問題でも本来責められるべき話ではない)のに、周囲の理解がなくて苦しむ事例が多いという話をしようとしている、まさにそのときに「不理解に基づいたデリカシーのない発言」のよい悪例を与えてくれているわけである。人権侵害であるうえにバカをさらしている。ハズカシイったりゃありゃしない話だ。自民党都議団はじめ自民党は即刻全国の党員・党所属国会議員・地方議員らに対して不妊の啓発活動を行うべきだろう。
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また、個人的に身震いするほど気持ち悪かったのは「独身らしいよ?」という隣席の議員に向けたであろうつぶやきだ。そう、この野次の主、質問者の塩村都議に対して明らかに性的な対象として見ているのだ。おお、おぞましい。壇上にあがった「美人女性都議」をいやらしい目で見るオッサン議員。
都議会の構成は127の議員に対して女性はわずか25人、発言者がいたとされる自民会派に至っては59人のうち女性は3人しかいないのである。大勢のおっさんたちから値踏みされ視姦され嘲笑されながらの質問、どんなに耐えがたいものであったか想像しきれない。
塩村都議の質問フルバージョンはこちらだ
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・報道過熱に感じた違和感
この話題、最初に知ったのはツイッターでした。至極冷静な指摘が多く、断じて許してはならないセクハラと数の暴力の現状、よくわかるものでした。
しかし一転、冒頭にも挙げたNHKニュースを見たところ、「????」 強い違和感を持ちました。
もう一度リンクを。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140619/k10015348641000.html
このリンクはダイジェストなので本放送はもっと強い違和感を持ったのですが、席に戻るなり泣いてしまう塩村都議の背中を長回しで追い、落ち込んでいる塩村都議のインタビュー映像、「超党派で女性都議も支援しています!!」として都議会会派「結いと維新」の田中朝子氏の簡易インタビュー(田中氏は結いの党所属で塩村氏らとは当選後の会派結成をめぐり争った仲である。)へとつなぎ、スタジオに戻ると「おなじ女性が受けた発言としてとうてい許すことはできません」と井上アナウンサーのコメント。
という、一連の「演出 」である。
もう一度強調しておくが今回の野次が女性に対する言葉の暴力でありとうてい是認しえないものであることはたしかであるし、塩村都議自身が受けた精神的苦痛に対しても計り知れないものがあるのは認める。
が、NHKのニュース報道の持っていきかたには「か弱くて可哀想な女性都議を男性たちがよってたかっていじめた、かわいそう」「それをほかの会派の女性都議たちも超党派で応援している!がんばれ!」あまつさえ「やっぱり男は頼りにならない!」みたいな単純化された図式に感じてしまう。
こうなるともはや、この問題を報じることは一種のエンターテイメントである。
「男社会のなかで女性が傷つけられ、それでもひたむきに頑張る。そしてそれを女性たちが守る。」という物語としての形式に無理やりはめ込んでいるのである。
これは巷間にあふれる「女社長孤軍奮闘物語」みたいなものとおなじで、ある意味では「女」を記号として消費している、新しいかたちの性差別表現だ。
90年代以降「女性の自己実現」を強調する物語が増えたが、そこで求められる新たな女らしさみたいなものは必ずあって、「仕事も恋も家事もこなす女」であり、必ず「容姿端麗」でなくてはならないことになっている。 「男性社会のなかでやってくのは大変なんでしょ」「でもやっぱり家庭をもつのが女の幸せなんでしょ?」という性差に対する偏見がある。そして女性として実現できる自由に必ず限界があるばかりか、周囲の理解が得られず達成できなかったとき、それは明らかに女性の自由な生き方を否定する動きであっても「女性自身が理解を得るための努力をしなかった」ものとして「自己責任化」されるのである。しかも「個人の力」で様々な障壁を乗り越えられるとしてしまったせいで本来社会的な改善が必要な構造的諸問題についてもフェミニストの連帯を分断してしまった。こうした「女性の、個人による自己実現」を強調する諸運動、文化的諸表象は「ポストフェミニズム」と呼ばれ、女性に対する構造的暴力を可視化しづらくするものとして懸念されている。
僕は今回のNHKの報道姿勢に「女性差別に立ち向かう女たち」という定式におとしこめた、ポストフェミニズム的女性観を感じたのである。
心無い野次には猛然と言い返す無所属の西東京市議会議員 納田さおり氏は自身のFacebook で
「ヤジられることに馴れきってしまった私には庇ってもらえて良いですねとしか思えませんでした。 ちなみに私だったら「子どもがいないから出産や子育て支援の質問をしてはいけないのですか?子どもがいないからこそ、客観的に見れるものもあるのでは?ではご自分でも子どもを育てた事がおありになるの?」と怒鳴り返してしてしまうだろうなとf(^_^;)... 女性だからこそ、燐とした対応の見せ処では。 もちろんヤジの内容は酷いですが、可愛そうに甘えてしまっては、女性議員の立場が舐められます。 」
と書いています。
・塩村都議は「か弱き乙女」か?
さて、選挙ウォッチャーである僕としては当然塩村都議の名前を知っていて、どんなひとだかみんなに知られてるものだと思ってたのですが、ふと冷静になってみると都議会議員の名前なんてみんなそんな知っているもんじゃないですよね。いちおうおさらいしておきましょう。
1978年広島県福山市生まれの35歳、グラビアタレントなどを経て、明石家さんまの人気番組「恋のから騒ぎ」で高飛車なドSキャラとして大物芸能人にも強気な発言で臨み、人気を博する。その後放送作家に転身。ブログで動物愛護などに強い関心を示すようになり、維新政治塾に入塾し大阪都構想などにつよい感銘を受ける。都議選直前に所謂「従軍慰安婦発言問題」を受けて維新からの立候補を取りやめ、みんなの党に鞍替えして立候補した経緯を持つ。都議選につづく参院選でははやくも渡辺喜美代表のお気に入りとして政見放送の聞き手役として出演。参院選以前、みんなの党には女性国会議員が(みどりの風から脅迫的にぶんどった)行田邦子氏一名。テレビ慣れしていて見栄えがする(そして渡辺代表の言うことをよく聴く)女性党員としてとても重宝がられたのがよくわかる。
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そのまんま東(東国原英男)氏の「予言」めいた発言。なんだかぞわっとしますね。
(埋め込みが無効にされていたのでYouTubeへのURLリンクです)
ことわっておくが、塩村議員の過去を暴いたからといった議員としての品性に関わる問題ではない。
維新からの衆院選立候補を取りやめたのも都議選をみんなの党から出ることにしたのも政策上の不一致ということになっているし(ほかの理由があったとしてもそれを表出しないだけのしたたかさは別に責められるべきものではない)、彼女が政策ベースでものを考えることができる都議である以上、有権者も政策で判断するのが賢明である。
当選後塩村議員はペット虐待の問題や子育て支援の問題に真摯に取り組み、よく調査している。
特にペットショップにおける生体販売の問題、上の動画の4:00から、劣悪なペットショップにおける動物愛護法違反、そして都が都民の通報を適切に処理せずに不適正事業者の認可更新を続けていた問題。いままであまり指摘を受けてこなかった問題について提議していることは特筆すべきだ。
そして、「タレント出身の目立ちたがり屋なんだから騒がれ過ぎだよね」といった言説にも注意せねばならない。何度も繰り返すが、これは女性に対する構造的な差別の問題であり、被害者が目立ちたがり屋だろうがなんだろうがそんなことで矮小化したり正当化していい問題では到底ないのだ。
ただ、「か弱い女性都議」というメディアのミスリードはやや修正する必要があるのではないかと思った。
むしろ、これが片山さつきや稲田朋美のような「強い」女性であったなら(そんな野次はおこらないだろうが)この問題は大きく取り上げられなかったのだと思う。
だからといって「騒ぎすぎ」というのはおかしいのだ。
塩村議員がタレントや放送作家も経験したひとで「自分の見せ方」を狡猾にわきまえているからといって、あるいはたとえ今回の騒動のなかで多少それを利用しているとしても、
そうでもしなければ顕在化しなかった「常態化した議会異常」の問題がたしかに存在していることが問題であり、心無い、そして品もモラルも知性もユーモアもない野次が横行していることを糾弾しているのは素晴らしい成果なのだ。
何度でも言おう。塩村文夏が恋からタレントだろうが高飛車ドSキャラだろうが、維新政治塾出身で選挙前に土壇場でみんなの党に鞍替えして当選してようがそんなことであのセクハラ発言が正当化されてはいけないのだ。ついでに言えばあの切込み隊長やまもといちろうブログの「一般論で言えば野次を飛ばした議員の資質が問われるのと別問題として塩村都議の資質も問われるべき」というのは不見識極まりない。塩村都議の過去は議員としての資質と無関係だ。それよりも当選後の政治的主張に目を向けるべきなのに彼は全くそこには触れていない。
(※やまもといちろう氏の当該コラムはこちら→
セクハラ野次@都議会事件に関する一般論による解説 Yahoo!ニュース トピックス)
・自民党に蔓延する女性蔑視と「伝統的家族観」
複数の地方議会の女性議員の話を聞くに、子育て問題で非常識な野次を飛ばすのはいつも自民党議員である。
みんなの党の浅尾代表の記者会見のなかの言葉で、「公約に子育て支援を掲げている党の議員が実際にはそれと違うことを考えているというのはおかしい」と表明していたが、自民党の議員で子育て支援をちゃんと考えているひとなどほとんどいなかろうと思います。
(※みんなの党記者会見の様子はこちらに全文レポが→
みんなの党、発言者特定に声紋分析を実施~セクハラヤジ問題で塩村都議が会見~ )
都議選のときも目立つところに「子育て支援」と書いているのに裏を見ると「行き過ぎた男女平等を見直し日本古来の家族の姿を取り戻します」とか「保育所に頼らずとも家庭で子どもを育てられるように支援します」とか時代錯誤も甚だしい文言を書いている候補者が多々いました。有権者はたいていそんなところ読まないですから。そもそも古来日本では農家や商家は共働きが一般的で、保守派が掲げている「伝統的家族観」とやらは武家に特殊な形態を維新後、あるいは戦後過度に美化するかたちで発展させた価値観でありさほど長い伝統ではありません。女が目立つのがひたすら我慢ならないようですね。
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